名古屋地方裁判所 昭和35年(ワ)178号 決定 1965年9月30日
名古屋市千種区丘上町一丁目九八番地
原告 加藤美恵子
右訴訟代理人弁護士 阿久津英三
名古屋市東区徳川町七丁目五番地
被告 桜山壮次
名古屋市中区南大津通二丁目七番地
被告 川村明
同所同番地
被告 山口里ゆう
同所同番地
被告 山崎寛造
同所同番地
被告 横井慎一
右被告等五名訴訟代理人弁護士 岩越成一
主文
一、本件口頭弁論期日を昭和四〇年九月三〇日午前一〇時と指定した裁判を取消す。
二、本件について原告からの昭和四〇年八月二四日付期日指定の申立を却下する。
理由
一、昭和四〇年五月二七日午前一〇時の本件第一五回口頭弁論期日に本件当事者双方は出頭しなかった。しかし同年八月二四日には原告から民訴法第二三八条に基づく期日指定の申立があり、右申立は同法条の期間内の申立であったので即日、次回口頭弁論期日を同年九月三〇日午前一〇時と指定する裁判をした(同年八月二六日、右期日指定の裁判は適式に当事者双方に告知されている)。しかしながら、当事者双方不出頭のまま右指定の時刻は経過した。
二、ところで、本件記録によって原告の訴提起から前記第一五回口頭弁論期日に至るまでの間の当事者の出頭状況その他をみたところ、昭和三五年三月五日の第一回口頭弁論期日に当事者双方出頭したほかは同年五月七日午前一〇時の第二回口頭弁論期日から前記第一五回口頭弁論期日まで、当事者双方一度も出頭していない。その結果として、その間の民訴法第二三八条に基づいてなされた原告からの期日指定の申立も連続一三回に及び、前記した原告からの今回の申立は実に同法条に基づく連続一四回目の申立(権の行使)であったのである。
そこで、以上の本件訴訟の経緯からすると、原告にはもはや本訴追行の意欲が無いか、有ったとしても甚だ希薄なことがうかがわれ、原告はただ隋性的に民訴法第二三八条が認めた期日指定の申立権を行使しているとしか考えられない。
三、そこで、このような申立権行使の効果についてであるが、それが同法条の要件に形式的に該当してさえいれば常に期日指定をしなければならないものなのか、それとも、申立権の乱用にわたると判断されたときはこれを却下排斥できるかの点であるが従来黙過されている現象、即ち、ある具体的事件において当事者の期日軽視がもとで裁判が遅延し、そのことを関係当事者も亦、止むを得ないとしてその不利益を甘受している、あるいは裁判の遅延が、むしろ関係当事者の期待するところとなって期日を無視している、といったような現象も、例えば当事者双方不出頭で休止となること連続一〇回以上に及ぶとか、通算すれば二〇回に達するとかに至ったときは、その背後の事情はともかくとして、結果的にそのような遅延した裁判が存在しているということ、そのこと自体が一般の人々に裁判機能に対する懐疑、不信を抱かせる因ともなるものであることに思いをいたせば、もはや具体的な一事件の帰すうの問題にとどめず、民事裁判制度に対する国民の信頼を侵触する行為として考慮評価しなければならないと考えられる。
四、本件についての前述した経緯と当裁判所の右の見解からするときは、原告からの昭和四〇年八月二四日付期日指定の申立は訴訟追行の意思が無いか、有っても甚だ希薄であるのに期日指定申立権を乱用したものであり、その結果、裁判制度への信用という申立権者の法益に比してより大きい法益を損うところの無効の申立であったと結論すべきこととなり、従って右無効の申立に基づいて本件口頭弁論期日を昭和四〇年九月三〇日午前一〇時と指定した裁判は右期日を開始することなく、これを取消すべきものとなる。
よって主文のとおり決定する。
(裁判官 井野三郎)